コラム
“悔しい”と“後悔”は違う
――関根大気は前を向く
2022/04/04
「打てなかったです。すみません」
4月2日、神宮球場でのスワローズ戦の直後、アイブラックも落としていない関根大気はまずそう言った。
ただ、表情は決して暗くはなかった。誤解を恐れずに書けば、朗らかでさえあった。
関根はプロ8年目だった昨シーズン、自己最多となる103試合に出場を果たした。オフに入ると、右肩の手術を受けた。
過去3度にわたり脱臼を繰り返してきたからだ。2016年3月、2020年6月、昨年9月と間隔は狭まり、もはや迷う余地はなかった。
今春のキャンプはファーム組。術後の疼痛は依然として続いていた。
「2月中は中から疼く痛みがありました。練習も、もっとやりたいけど『これ以上はやめとくか』という過ごし方になっていた」
ただ、一軍の舞台に再び立つには結果を残すことが必要だった。痛みがあるなかでも、どうプレーすればよいのか、どうすれば打撃の確率が上がるのか、試行錯誤を続けた。関根は言う。
「それなりに打席に立たせていただいて、凡退しまくりました。でも、そうやっていっぱい失敗できたことがよかったですね。打席に立ったぶんだけ失敗の原因を考えることができたので」
3月に入ったころ、肩の痛みは「ひゅっとなくなった」。それとともに、事態は大きく好転していく。
オープン戦の最終カード、札幌でのファイターズ戦に参加。3試合を終えたところで、リハビリ組に合流するN.ソト、T.オースティンとの入れ替えが公式に発表され、そのまま開幕を一軍で迎えられることになったのだ。
開幕5戦目となる3月30日のドラゴンズ戦、6番・レフトで今シーズン初のスタメン入り。満塁で迎えた第2打席で2点タイムリーを放つ活躍を見せると、次戦以降もスタメン起用が続いた。
ここまで、何もできずに終わった試合はない。必ずどこかで、重要な仕事を果たしてきた。
同31日のドラゴンズ戦では、0-0の9回、ノーアウト一二塁の場面でバントを決め、勝ち越しのチャンスを拡大させた。
4月1日のスワローズ戦では、やはり9回、1アウト二塁の場面でセーフティバントを試み、相手守備のミスを誘って得点につなげた。4回の第2打席は三振に終わったものの、先発の小川泰弘に11球を投げさせる粘りを見せている。
そして、同2日のスワローズ戦を迎える。開幕3連敗からの4連勝でチームが波に乗るなか臨んだ一戦だ。
関根は、この試合のキーマンの一人になった。
2回の第1打席で二塁打を放つと、続く大和がセンター前に弾き返した。
関根が三塁を蹴ったところで、ベースコーチは制止のジェスチャー。それに従い足を止めつつ、ボールの位置を確認した。
「センターが持っている。まだ行ける」
三本間でニュートラルの体勢を維持。外野手が内野に返球する腕の動きを見て再スタートを切った。
「ちょっと緩く見えた。その瞬間に『行っちゃおう!』って」
瞬く間に滑り込んでセーフのコールを聞いた。わずかなスキを逃さぬ走塁でもぎ取った先制点だ。
5回に同点とされた直後、6回のベイスターズの攻撃。1アウト満塁で関根の打席がやってくる。
この場面でスワローズは継投に入り、マウンドには田口麗斗が上がった。初球のスライダーを関根は打つ。しかし、セカンドゴロ併殺打となり、チャンスはついえた。
8回、さらに延長10回にも、一打勝ち越しの場面で打席に立った。結果は三振とセカンドゴロ。合わせて3度の得点機をものにできず、10回裏、ベイスターズはサヨナラ負けを喫した。
関根は言う。
「打ちにいったことに関しては、自分の中で割り切れていたので後悔はないです。ただ、その中での内容。もう一つ、こうしたらっていうところをできなかったことには悔しさが残ります」
今後も対戦があるため詳細は明かせないが、どの打席でも、最も打てる確率が高い球に狙いを定め、スイングのイメージはできていた。ただし、球威やコース、配球は、実際に打席に入るまでわからない。想定とのわずかなズレへの対応、瞬時の判断。紙一重の戦いを繰り広げるなかで凡打という結果は出た。
「やりたいことを決めて、それをやったなかでのミスであれば、それは確率の問題。その一つ前の段階で自分から確率を悪くしてしまうのはよくないし、そういう打席をなくしたいというのは強く思っています。今日、3回凡退しましたけど、自分がどう思って打席に立ったかということに関しては、やれることはやっていると思う。そのうえで結果が出なかったのは絶対に理由があるわけで、そこはやっぱり悔しいですし、修正していきたい」
「“悔しい”と“後悔”は違う」と関根は言う。悔しさにまみれながらも後悔はしなかったスワローズ戦。だからこそ、サヨナラ負けの直後であっても26歳はあくまで前向きだった。
故障の外国人野手と入れ替わる形で、関根は一軍に合流した。ソトとオースティンが復帰した場合、関根や、同じく活躍を見せている外野手である楠本泰史の立場はどうなってしまうのか。ファンの関心が向く一つのポイントだろう。
そんな話題を振り向けられると、関根は言った。
「(外国人選手が)戻ってきたらということは、正直なところ、いま考える必要はないのかなと思いますね。そこを考えたとしても、いまできることは変わらない。それこそ自分でコントロールできない部分ですし、今日の試合だとか、明日のための準備とか、そっちのことしか考えていません。(ソトやオースティンは)すばらしいバッターだし、チームにとって絶対的にプラス。でもそこで『どうぞ』と言っていたらぼくの野球人生は終わるだけなので。そうさせないように、自分は何をするか。そこだけですね」
開幕3連敗という苦しいスタートを切りながらも、名古屋でドラゴンズをスイープして持ち直すなど、チームは昨シーズンと違う姿を見せている。
関根は、一軍で戦いながら、全員で立ち向かっていく姿勢の強さを感じていると話す。
「『全員で勝とう』という言葉が、円陣での掛け声だったり、コーチの方たちからも出てきている。そういう言葉からエネルギーをもらっているところはありますね。進塁打を打ったりしたとき、(ベンチで出迎える)選手、監督、コーチがこれまで以上に評価してくれるんです。そういう部分でのやりがいだとか、チームに貢献できている喜びをすごく感じられるようになりました」
明日4月5日からは、甲子園でのタイガース戦。8年連続で負け越している相手に対し、全員野球で立ち向かっていく。