コラム
【三浦大輔監督インタビュー】
――『悔』の一字を胸に刻んで
2022/12/29
冷たい空気が列島を覆う季節、ペナントを争った熱戦の日々は遠ざかった。
だが、痛みはいまも消えない。
2022年シーズンのベイスターズは、前年最下位からセ・リーグ2位へと順位を上げたが、頂には届かなかった。2年続けて、スワローズの胴上げを間近で見せつけられた。
この時期よく目にするニュースになぞらえて「今年の漢字を一文字で表すなら?」と問われた三浦大輔監督。短い間を置いて、こう答えた。
「ずっと言ってることだけど、『悔』の一文字かな。去年とはまた違う悔しさがあったからね」
4月、新型コロナウイルス陽性判定による離脱者が多数出たことも一因となり、月間7勝12敗と負け越した。ここでつくった“借金”を引きずり、徐々に膨らませながら、前半戦は進んだ。
その時期の試合結果を見返すと、投手陣の苦戦が目立つ。特に、開幕ローテーション入りした先発投手が勝ち星を伸ばせなかった。
開幕投手を託された東克樹は6戦で0勝(5敗)。さらに坂本裕哉は5戦で0勝(2敗)、F.ロメロは10戦で3勝(5敗)、上茶谷大河は9戦で2勝(6敗)と、波に乗れないままローテを離脱した。三浦監督は言う。
「期待する部分が大きかっただけにね、結果は違うものになってしまったかなと。投手陣がリズムに乗るまで時間がかかりましたけど、それぐらい(の借金)で我慢しておけば、まだまだ巻き返せるという思いはありました。昨年の、ズルズルと行ってしまった前半戦に比べればね。なんとか我慢しながら、踏ん張れていた」
先発陣の最終結果は、今永昇太と大貫晋一が11勝で勝ち頭となり、濵口遥大の8勝、石田健大の7勝と続く。ロメロは退団となったが、東、坂本、上茶谷らの今後については、指揮官はどう考えているのだろうか。
「競争ですよね。先発として考えるなかで、チーム事情によっては中(中継ぎ)に入ってもらったり。今年の成績でいえば、今永、大貫、濵口、石田、外国人ではR.ガゼルマンもいる。そこで5枚目、6枚目に割って入れるかどうか。そういったことは考えています」
シーズンの様相が大きく変わったのは夏。特に8月は月間18勝(6敗)と、勝ちまくった。
「その前の7月からですよね。接戦が多くあったなかで、先発投手の状態が上がってきたこともあって、僅差の試合に勝てるようになった。そういう戦いを続けているうちに選手たちが自信をつけてくれました。もうひと踏ん張りだ、おれたちもやればできるんだ、という思いが出てきて、ファンの方のボルテージも上がり、声援が後押しになり。最高の空気がつくられたなかでホーム17連勝ができたんだと思います。ゾーンに入るという言い方がありますけど、チームとしてゾーンに入ったような感じでしたね」
当時、ファンを楽しませていたのは、勝利後の監督インタビューだ。ベンチ裏で選手らが喜びを分かち合う大きな声が、マイクにしっかり拾われていた。それを背に、にこやかに質問に答える三浦監督という構図が、チーム状況の良さを象徴しているかのようだった。
「とにかく雰囲気を大事にしようって。連勝しているからといって、守りに入ることもなく。良いときはどんどんノッていこうよと。春先からずっと考えていたのは、どうしたら選手の力を発揮させられるのかということ。だから、この雰囲気を壊さない。この雰囲気でもっとノッていけるように、ということばかり考えていました」
夏の猛追で、首位スワローズとのゲーム差はいっきに縮まった。8月26日からの直接対決3連戦は、優勝争いの行方を占ううえで極めて重要なカードとなった。
しかし、ベイスターズはここで痛恨の3連敗を喫してしまう。スワローズの主砲、村上宗隆が4本塁打。最大級の警戒をしていながら、抑えられなかった。
三浦監督の言葉には、4カ月近く経ってなお、悔しさがにじむ。
「まあ……たしかにあのときの村上選手は、年間通してもそうですけど、特にあの時期は手がつけられないぐらい状態が良かった。村上選手だけじゃないんですよね。前後を打つバッターも含めて打線としての勢いを感じましたし、そこを止められなかった。こればっかりはね……向かっていくなかで抑えきれなかったというところ。結局は、それで負けたら監督の責任ですから」
先を行くツバメに追いつけないまま、レギュラーシーズンは終了。「2022 JERA クライマックスシリーズ セ ファーストステージ」ではタイガースと対戦し、1勝2敗で敗退した。
対スワローズの戦績、9勝16敗。また、対カープの戦績は8勝17敗。合わせて「16」の負け越し。2022年を振り返るうえで、決して無視はできないデータだ。
何がこうした偏りを生み出したのか。そして、どう対策するべきなのか。三浦監督は言う。
「その2チームにはよく打たれたな、という印象があります。接戦に持ち込めなかった。今年は日程のめぐり合わせで、同じローテーション投手が同じカードで投げるということが結構あったんですよね。そういうところが、対戦成績にも影響したのかもしれない。来シーズンは日程やローテーションのことをもっと考える必要があると思いますし、そう考えるとやっぱり先発の5枚目、6枚目がすごく重要になってくる」
対戦チームに合わせた柔軟な先発投手起用は、層の厚さがあってこそ実現可能だ。先述した投手たちの再起に加え、若手、新戦力の台頭にも期待がかかる。
143試合を戦い抜くなかで、指揮官の目にとりわけ強い印象を残した選手は誰だろうか。三浦監督がまず挙げたのは、リーグ最多の71試合に登板した新セットアッパーの名前だった。
「投手でいえば、今年は伊勢(大夢)。1年通して、セットアッパーとしてしっかり役割を果たしてくれた。回の頭からも、途中からピンチのところで行っても、自分の仕事をきっちりしてくれましたし、昨年と比べて大きく成長したかなと思います。昨年と違うという意味ではヤスアキ(山﨑康晃)もね。今年はシーズンを通して、クローザーとして良い働きをしてくれました」
続けて、野手では大卒5年目の楠本泰史をピックアップした。
「T.オースティンがいないなかで、派手さはないけれども、よくやってくれたかなと。もちろん今年の成績(打率.252)で満足するわけじゃないし、こちらが求めているものはもっともっと高いですけど、今年1年の経験は楠本にとって非常に大きなもの、来年以降につながっていくと思いますね」
冒頭で紹介したように、今シーズンは『悔』の一字に凝縮される。ただ、采配に関して「後悔はない」と三浦監督は言う。
「去年(監督就任1年目)は、いろいろ決断を迫られるなかで『どっちが正解か』ってことばかりを考えてしまっていたんです。今年は、去年に比べれば、割り切れたかなと。もちろん、結果が伴わなかったことも多々ありますけどね。この決断(力)をもっと磨いていかないといけない。来シーズンはコーチからのインプットをもっともっと拾っていって、割り切って決断していきたいなと思っています」
悔いなき決断を繰り返す一方で、思い描いていた野球を常にできたわけではない。「やりたかったができなかったこと」を問われると、三浦監督はこう述べた。
「逆転の試合が少なかったかなと。先発陣が崩れたとき、中盤以降も引き離されてワンサイドになってしまい、踏ん張って接戦に持ち込めるような試合が少なかった。攻撃面でいうと、1点を取りに行く意識を持ちすぎたかな、というところですよね。1点を取ったところで、そのあとが続かなかったり、打線に勢いをつけることができなかった。やはり序盤にもう少し思い切った攻撃を仕掛けていかないといけない。来シーズンは、もう少し大胆に攻められるようにと考えています」
進塁打や走塁の意識向上による1点へのこだわりは、春季キャンプからの一貫したテーマだった。それは間違いなく重要なことなのだが、実戦を経て、打線の勢いにつながりにくいという側面も浮かび上がることになった。たたみかけるべき局面では大胆に。競り合う終盤では確実に。そんなふうに「使い分けられるようにしていかないと」と三浦監督は話す。
オフに入り、選手の移籍などの動きが連日報じられてきた。たとえば、嶺井博希がFA権を行使し、ホークスへの移籍を決断。今シーズン93試合(スタメンは74試合)に出場した主力捕手の退団に、指揮官は何を思うのか。
「たしかに嶺井が抜けたのは痛いですよ。ですけど、そこで1つポジションが空くわけですから。光(伊藤光)も、戸柱(恭孝)も、来年はおれの出番だって、そういう意識はすごく感じます。プラス、そこにもう1人、誰が入ってくるのか。来年、捕手2人体制なのか、3人体制でいくのかは、まだ決めていませんけどね。チャンスをつかめるかどうかは選手次第なので、そのあたりの見極めをキャンプからオープン戦でしっかりしていきたい」
新加入組でチームに強い刺激を与えてくれそうなのが、京田陽太だ。ドラゴンズとの間で、砂田毅樹とのトレードが成立した。三浦監督は言う。
「京田は今年は苦しんだシーズンだったかもしれませんけど、ポテンシャルは非常に高い選手だと、対戦しながら思っていました。このトレードは、本人にとっても、チームにとっても良い刺激。一度、食事をしましたけど、ギラギラしたものを感じました。遊撃手のポジションには、ベテランの大和、守備力の高い柴田(竜拓)、期待の若手である森(敬斗)といった選手たちがいる。京田が入ることで競争がより激化するわけですから、キャンプが楽しみでしょうがないです」
就任3年目となる来シーズンの目標は、ただ一つだ。
「やはり1998年以降遠ざかっている優勝を目指して戦います。今年2位になったから来年はできる、というものでもない。他球団もそれぞれに戦力補強してきますから。そこにどう食らいついていくか。ファンの方たち、一緒に戦ってくれていますけど、来年もまた一緒に戦ってください。よりいっそうの後押しをしていただき、一緒に、頂点を目指して突き進んでいきましょう。ヨ・ロ・シ・ク!!」
番長節で締めくくった。