コラム
積み重ねた自信
――大貫晋一、成長と悔いの交流戦
2022/06/13
2022年の日本生命セ・パ交流戦を、ベイスターズは9勝9敗の五分で終えた。
パ・リーグのチームと交えた18戦の中に、1点差の惜敗が4つあった。
たとえば6月10日、ZOZOマリンスタジアムで行われたマリーンズ戦。先発を託されたのが、交流戦2戦2勝と好調だった大貫晋一だ。
1-1の同点で迎えた6回にピンチを招く。2アウト一二塁で、打席にはB.レアード。大貫が振り返る。
「インサイドのボールで詰まらせるか。スライダーを引っかけてもらうか。ぼくの中では、その2択でした」
2球目から3球連続で、捕手の嶺井博希は内側にミットを構える。詰まらせて凡打、あるいは外角スライダーへの伏線として。リードの意図を理解して、大貫は腕を振る。
だが、コースの厳しさと球の威力が足りなかった。やや詰まりながらもセンター前に運ばれ、決勝点を奪われた。
「シンプルに、相手に負けた」
あまり感情を表に出さない28歳が唇を噛んだ。
大貫は今年でプロ入りから4年目を迎えた。
2020年に10勝(6敗)、2021年は6勝(7敗)ながら2年連続でチームの勝ち頭に。昨シーズン通年の防御率は4.34だったが、後半の9試合に限れば同2.77。短いイニングで降板する試合が相次いだ前半戦に比べ、安定感は高まった。
オフ、そして春季キャンプを過ごすうえで、こんな方針を立てていた。
「ケガをしないような体づくり。あとは、これまでは球種を増やすことに取り組んでいたんですけど、いまあるものをよりよく使うためにどうすべきかということを考えたい。足し算というよりは、引き算で」
入団後にチェンジアップやカットボールを覚えるなど球種は増えたが、次のステップとして選別に踏み切った。軸になる得意なボールと、試合で有効に活用できておらず「データ的にもバリューが低いボール」。両者の間に境界線を引き、質を引き上げる取り組みにメリハリをつけた。
今シーズン、チームには1998年のリーグ優勝・日本一を経験した“レジェンド”がコーチとして加入。横浜市出身でベイスターズファンだった大貫は、キャンプに入る前、「ファン目線で言うとすごく興奮しています」と目を輝かせていた。
かたや選手として、新任のコーチにぶつける質問を頭の中で練っていた。
「セ・リーグの他球団で指導されていた方もいる。あちら側からの視線で見るぼくはどうだったのか、そこはマストで聞こうと思っています」
カープ、スワローズ、ジャイアンツでコーチを歴任してきた野手総合コーチの石井琢朗から返ってきた答えが心に残った。
「すごく詳しく、いろんなことを教えてもらいました。特に印象にあるのは『もう少し、遊び心みたいなものを持ちながらやるといいよ』と。バッターの反応を見ながら、あえて真ん中に投げるとか、インコースに3球続けてみたりとか。そういう駆け引きの部分ですね」
そうした助言は、過去3シーズンの経験から生まれる精神的な余裕と重なり、オープン戦での好投につながる。4試合20イニングを投げ、防御率は1.35。今永昇太が故障離脱中だったこともあって、大貫の名は開幕投手候補として挙げられるようになる。
「自分が指名されるかも、とは思ってなかったですよ。ただ、チャンスではあったし、ひそかに狙っていたことは間違いないです」
三浦大輔監督が選んだのは、東克樹だった。大貫は言う。
「ぼくがどうこうできる問題じゃない。もっとがんばって、信頼を勝ち取って。何の迷いもなく送り出されるような選手になれたらと思います」
大役の座を逃したものの、開幕から先発ローテーションの一角として現在まで投げ続けてきた。
はじめは、結果を伴わない投球が続く。初登板となった3月26日のカープ戦は4回0/3、失点7(自責6)。3試合に投げた4月も0勝で終わった。
「調子自体は悪くなかったので、『何でこうなってしまったんだろう』『こんなはずじゃなかったのに』という気持ちでした。やっぱり1つ勝つのは大変なんだな、と」
チームを勝ちに導けない悔しさを募らせながら、大貫は何かを変えようとはしなかった。口調をやや強めて言った。
「一回ダメだっただけで自分を変えちゃうっていうのも、それはそれでよくないと思うので」
心の幹がひと回り太く、たくましくなったことを窺わせる一言だった。
実際、5月に入ると大貫に勝ちが付き始めた。交流戦の初戦となった5月27日のライオンズ戦で3勝目。同月25イニング以上を投げて、わずか3点しか取られなかった。
交流戦に入って2度目の登板は、6月4日のイーグルス戦。大貫にとっては、新人だった2019年以来3年ぶりの対戦だ。
前回は、心まで打ちのめされた。二塁打3本を含む4安打を浴び、3四球、6失点。7人の打者から1つのアウトも取れずにマウンドを降りた。
大貫は言う。
「今回投げる前まで、多少は意識している部分がありました。あそこでやられたことは、あそこでしか返せない。絶対にやり返す、勝つという思いはすごく強かった」
球数がかさみ5回を投げ終えたところで降板することになったが、無失点で4勝目をつかみ取った。リベンジを果たし、「精神面でも、スキルの面でも、3年前より確実に成長できた」とうなずく。
いま、自信はありますか――そんな質問にはこう答えた。
「もちろん、あります。でも、自信と過信は紙一重。過信ではなく自信を持った状態でマウンドに立ちたい。そう常に思っています」
交流戦に対する負のイメージを払拭し、続いてマリーンズ戦に先発した。試合前、バッテリーを組む嶺井とともに、投球プランを組み立てた。
調子を上げつつある外国人バッターの前にランナーを溜めて長打で大量失点するのは避けること。また、タテの変化が効果的という分析に基づき、落ちる球を生かすためにストレートの両サイドへのライン出しを意識することを確認した。
ところが――。
「プランどおりにはまったく……。ゾーンを上げてきて、低めのボールに手を出さないことが徹底されているように感じました。うまくスプリットにつなげられなかった」
それでも回を重ねながら軌道修正した。スプリットへの意識が強いことを逆手に取り、ストレートを増やし、感触のよかったスライダーでカウントを稼いだ。「自分らしい投球ではなかった」が、最少失点で切り抜け、6回もマウンドへ。
1アウト後、大貫は2者連続で四球を出してしまう。ここで打席に迎えた4番の佐藤都志也との対戦で、一つ、明確になったことがあった。
初球のスプリットがワンバウンドしてボールに。2球目でレフトフライを打たせて2アウトになったものの、決め球にしたいスプリットを投げきれない状態になっていたのだ。
だからこそ、冒頭のとおり、レアードを打ち取るにはインサイドで詰まらせるか、外のスライダーを引っかけさせるかの2択となった。嶺井も、内角の厳しいコースへの球を続けて要求した。
大貫が振り返る。
「1打席目はツーシームでデッドボールでしたし、バッターも内角は意識していたはず。(カウント2ボール1ストライクから嶺井が内角に構えたのは)そこでファウルを打たせて、最後のスライダーにつなげたかったんだと思います。結果的には打たれてしまったけど、選択としては間違っていなかった。球にファウルをとるだけの威力がなかったということです」
武器が一つ欠けた状況で、冷静に投げてはいた。ただ、力で相手に上回られた。
「交流戦をいい形で終わりたかった」大貫にとって、悔しさの残る1敗となった。
とはいえ、6回を投げきったことで、今シーズンの登板イニング数は58回1/3となり、チームで唯一、規定投球回に到達した。
「ギリギリですけどね……。でも、規定投球回は今シーズンが始まる前に目標として掲げたこと。1年目から毎年、どこかで必ずファームに落ちてしまう期間があるので、今年こそは1年間、一軍で先発ローテーションを守り抜きたいと思います。少しでも長いイニングを投げて、もう1イニング、もう1イニングとチームから送り出してもらえるようなピッチングを続けて、かつチームに勝ちがつくように。そうすることが、今後チームが順位を上げていくうえで大事だと思う」
交流戦の結果、セ・リーグは3位から6位までのゲーム差がいっきに縮まった。リーグ戦の再開と同時に、順位は激しく変動しそうだ。
ベイスターズは現在5位。大貫をはじめとする先発投手陣の奮闘が、混戦を勝ち抜くための重要なカギになる。