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コラム

2年目は「自信」とともに
――4番打者、牧秀悟の真価

2022/05/30

 打率.324、セ・リーグ1位。

 出塁率と長打率の和を表すOPS1.081、同1位。

 得点圏打率.415、同1位。

 また、本塁打13本、打点37はいずれもスワローズの村上宗隆、ジャイアンツの岡本和真に次ぐ同3位。試合数の差を考慮すれば、上位の2人とほぼ肩を並べていると言ってもいいだろう(ベイスターズはスワローズより4試合、ジャイアンツより9試合少ない)。

 これが、プロ2年目の5月を終えようとしている牧秀悟の現在地だ。

 牧は浮かれる様子をまったく見せることなく、淡々と話す。

「調子はいいほうだと思います。個人としては、去年よりもいい成績を、いまのところは出せている」

special2022

2年目は戸惑いと不安のなか始まった。

 あらためて説明するまでもなく、牧のルーキーイヤーは衝撃的であり、記録づくめだった。熾烈な新人王争いに惜しくも敗れたものの、新人特別賞を受賞。「思っている以上の成績が残せた」と、本人も驚いていた。

 一方で、2年目に対しては「正直、不安もある」とこぼしていた。

 その滑り出しを不測の事態が襲う。春季キャンプイン直前の今年1月末、新型コロナウイルスの陽性判定を受けたのだ。

「ここからやるぞ、というときにコロナにかかってしまって……。出遅れることになり、戸惑いや不安がありました」

 昨オフ、LINEでつながった鈴木誠也(現シカゴ・カブス)から「体を戻すのには時間がかかる。じっくりやったほうがいい」と連絡を受けた。同時に、こんな言葉も贈られた。

「自信を持ってやっていけば、なんとかなるから」

 復帰後の調整は順調に進んだ。オープン戦で好成績を残し、3月上旬には三浦大輔監督から「開幕4番」を言い渡された。

ペナントレースの幕が開くとき、牧は自分の胸にこう誓ったという。

「去年はがむしゃらにやっていたけど、今年は周りを見ながらプレーする。そのうえで、去年の成績を上回る」

 求めるのは、昨シーズン+α。そして試合を重ねながら、誓いを現実のものとしていく。

 開幕から数えて10試合目、4月6日のタイガース戦。相手先発の伊藤将司が好投を見せ、ベイスターズ打線はほぼ完全に封じ込まれていた。

 スコアは0-1で、9回表に入る。先頭の桑原将志が粘って四球をもぎ取り出塁すると、送りバントで二塁に進塁。だが次打者の佐野恵太はサードゴロに倒れて、2アウト。あとがなくなった。

 この土壇場で打席に入ったのが、牧だった。

今シーズン、最も印象に残っている一打。

 一打同点か、ゲームセットか――。

 緊迫の対戦はフルカウントまでもつれる。2ストライクに追い込まれたときから、甲子園球場には“あと1球”のリズムに合わせてメガホンが打ち鳴らされていた。

 チャンスでの打席について、牧は言う。

「ランナーなしと得点圏にいる場面とでは、正直、気持ちの入り方が違いますね。力は入るけど、それよりも『ここで打つぞ』という気持ちのほうが強い。調子がいいときほど、力みが出ないのかなと思います」

 響きわたる喧噪にも、アウェーのムードにも、心がかき乱されることはなかった。「平常心を忘れないようにはしているので」。迫り来る白球にのみ意識は集中していた。

 7球目、伊藤が投じた外角のチェンジアップに食らいついた。バットの先端に当たり、力が十分に伝わらなかったことが幸いした。打球は、前に飛び込む中堅手のグラブの下をすり抜けて、緑の芝に弾んだ。

「粘って、打って、落ちたときはすごくうれしかった」

 今シーズン、最も印象に残っている場面として牧が挙げたのが、この同点打だった。

 延長12回に5点を奪っての逆転勝利。4番打者としての真価を発揮したゲームとなったが、ここで再び想定外の事態に見舞われることになる。

 またしても、コロナの陽性判定が出たのだ。

「『まさか自分が』という、びっくりした気持ちしかなかったですね。(隔離期間の)最初の2日間くらいはやる気が起きなかった。でも一度は経験していましたし、後半は試合を見ながらモチベーションを高めていました」

 体力の回復や投球に対する慣れには時間がかかったというが、実戦復帰後の姿にコロナの影響は感じられなかった。

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プロ入り前と現在とで何が違うか。

 シーズン前半戦の半分ほどを消化した。昨年はこの時期に疲労の蓄積から成績を落としたが、今年の体の状態はどうだろうか。牧は言う。

「去年ほどではないですけど……はい、疲労はあるのかなと思います。練習するときは練習して、休むときは休む。あとは練習の時間を短くしたり、入念にケアをしたりすることで対策をしています」

 シーズンを通して試合に出続けた経験は、疲れに対する向き合い方だけでなく、打撃においても生きている。常々話しているように根幹の部分は変えていないものの、2年目の変化はある。

「より強い打球を打てるようにしたい、ということは考えています。あとは、選球眼も去年よりよくなっているのかな、と。同じピッチャーと何度か対戦を重ねてきたなかで、どんなボールを投げてくるかはわかってきているので」

 何よりも変わったのは、心だ。プロ入り前の牧秀悟と現在の牧秀悟は何が違うかと問われ、こう答えた。

「いやあ……特に変わってないですよ(笑)。一つあるとしたら、去年1年間やれたという自信が、大学生のときとはまったく違う。いい余裕が出てきて、強気でいられています」

 5月24日からは日本生命セ・パ交流戦が始まった。牧は、ここまでの6試合のうち5試合で安打を記録し、3本塁打。パ・リーグのチームの印象をこう語る。

「力強いフルスイングをするバッターが多いし、ピッチャーも強い球、強い変化球を投げてきている。そういうことは感じています」

 ほとんどが初対戦の投手だが、ここまで放った安打からは一つの傾向が浮かび上がる。6本のうち4本(2本塁打)が、2打席目に記録されているのだ。

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中学時代の強肩エピソード。

 ホークスとの初戦では石川柊太、3戦目には杉山一樹から。

 ライオンズとの初戦では髙橋光成、3戦目にはエンスから。

 いずれも初対戦の先発投手を相手に、2打席目に捉えた。牧の対応力の高さを物語る事実だろう。

「1打席目にヒットを打てればいいんですけどね。2打席目でなんとか、という気持ちではいます。一度打席でボールを見れば、球筋もわかるし、気持ちはすごく楽になります」

 5月26日のホークス戦では、守備でも“勝負”した。

 2-1と1点リードで迎えた5回表。1アウト二三塁のピンチとなり、打席にはグラシアルが入った。三塁走者は俊足の三森大貴であり、ベイスターズの内野は前進守備を敷かず「1点はOK」の陣形をとった。

 グラシアルの打球は、ライナー性の低い当たり。ワンバウンドして、二塁手・牧の正面に飛んできた。

 捕球しつつ、視界の片隅で三塁走者の動きを捉えていた。

「ランナーが走っていないのがちょっと見えたので。咄嗟ですね。思いきってホームに投げてみました」

 打球がライナー性だったために、三森のスタートはわずかに遅れていた。牧の右手から放たれたボールは一直線に捕手のミットへ。かなり際どいクロスプレーとなったが、球審はアウトをコールした。

 肩の強さは、牧のもう一つの武器。こんなエピソードを教えてくれた。

「ちょうど最近、中学校のころの友だちと話したんですよ。シニアの試合のとき、自分は遊撃手で、その友だちはセンターを守っていました。センターに飛んだ打球を、友だちがポロっと後ろに逸らしちゃって。自分が中継に入ったのは、センターの守備位置の少し手前くらいのところ。そこからホームまでノーバン送球で、ランニングホームランを阻止しました」

 そんな思い出話を披露する牧の表情は、少しだけ得意げだった。

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「チームのために“勝つ一打”を」

 2年目とは思えない風格を漂わせ、冗談めかして“ベテラン”とも称される。その一方で、試合に勝ち、マウンドでハイタッチを交わしてからスキップでベンチに向かうなど、まるで少年のような顔も持つ。

 大人なんだか、少年なんだか――。牧の見解はこうだ。

「勝ったときは少年じゃないですかね。うれしいんで」

 これから先の戦いに目を向けると、表情を引き締め言った。

「個人としては、いまの状態はすごくいい。4番を打たせてもらっている身として、チームのために“勝つ一打”を打っていきたいです。チームとしては、交流戦に入ってから、いい勝ち方はしていると思う。この交流戦を機に順位を上げていけるように一戦必勝でやっていきたいなと思います」

 パ・リーグのチームとの対戦が、ここから4カード続く。今週は横浜スタジアムでの6連戦だ。

 勝って少年に戻る牧の笑顔を、駆け付けたファンの前で何度でも見せてほしい。

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