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FOR REAL-in progress-
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」

2018-09-10「10勝して勝ちたい気持ちがより強くなった」-東克樹に慢心なし




この若者は、いったいどこまで頼もしいのか。

 9月5日、富山市民球場アルペンスタジアム。地方開催のジャイアンツ戦は、東克樹にとって簡単なマウンドではなかったはずだ。

 まずビジターゲームでの登板自体が6月23日以来だった。加えて、中5日はまだ3度目。経験は浅くとも、過去の蓄積がないわけではない。東は確かめるようにしながら一歩ずつ、階段を昇っていった。

「前に比べれば、中5日の影響はなかったのかなと思います。慣れというか、体の張りもすぐに取れましたし、いい状態で試合を迎えることができました。ビジターは久しぶりで、流れをちょっと忘れているところもあったけど、思い出しながらしっかり調整して試合に入れました」

 球を投げる際の、指のかかりもいい。しかし、持ち前のコントロールが精度を欠いた。東が振り返る。

「ブルペンの時からちょっと荒れてましたね。まっすぐがしっかり自分の指にかかっていたぶん、逆にもっといい球を投げようとして力んでしまっていた。投げたいところに投げきれないというか」


 1回、2回とそれぞれ2者の出塁を許す我慢の投球が続く。そして3回、2アウト一塁の場面で、売り出し中の岡本和真に低めのスライダーを前で捉えられ、逆転の2ランを被弾。

思わず顔をしかめ、打球の落ちたレフトスタンドを見やってしばし立ち尽くしたが、捕手のほうに向き直った時にはスイッチを入れ直していた。

「あれはもう完全に失投だったので……。次の亀井(善行)さんですんなり終われるようにって、そう切り替えて投げることができました」

 その言葉どおり8球を費やして亀井から空振り三振を奪うと、すぐさま筒香嘉智の32号ソロで同点、さらに三塁打の桑原将志が犠飛で生還して逆転のホームを踏む。打線の援護に応えるように、東のギアが一段上がった。

 4回裏、3球連続のストレートでA.ゲレーロを見逃し三振としたところから波に乗り、5回は1アウト一二塁の場面で打席に迎えたC.マギーをチェンジアップで併殺に打ち取る。結局、失点は岡本の本塁打による2点だけで、6イニング102球を投げ抜いた。


「10勝したのはうれしかったです。でも、何か違うなって……」



 本調子でない中でも崩れず、踏ん張り、その間に立ち直る。目標の10勝を現実のものとした東の特質はそこにある。球の強さ、速さだけでなく、コントロールがあること。勢いよくミットに飛び込むストレートだけでなく、カーブ、チェンジアップ、スライダーといった一級品の変化球を操れること。それらのいわゆる“引き出し”が、170cmの小柄な左腕を難攻不落の城としている。

 だが当人は「まだまだです」と首を振る。プロの世界に入って初めてのシーズンを戦いながら、目の前にいる投手たちはみな見上げる存在だ。東は言った。

『この人、引き出しが多いな』って感じることはあるので、そういうのは勉強していきたいなと思っています。たとえば阪神のR.メッセンジャー投手。3度目に対戦した時(8月10日)、まっすぐはあまりよくないようでしたけど、スプリットをうまく使いながら、三振を狙わずに打ち取っていた。悪い時にどうカバーできるかという部分ですよね。だから長年にわたってあんなに勝てるんだなと感じました」


 ルーキーの対ジャイアンツ4戦4勝という史上初の快挙とともに節目の10勝に到達。だが意外にも、東はこんな言葉を漏らすのだった。

「10勝したのはうれしかったです。でも、何か違うなって……」


 心は快晴ではなく、忍び寄る雲があるというのだ。

「それで終わっちゃいけないっていうのはすごく感じました。心の底から満足はできていないのかな、と。15勝してるピッチャーもいるわけですし、残りの試合もある。もっと勝ちたいという気持ち、向上心が、10勝を迎えてより強くなってきました」

 A.ラミレス監督が「実質的なエース」とまで評価を高めたように、登板のたびに快投を披露してきた東だが、本人はあくまでも謙虚さを失わない。「投げない日の練習でも気を緩めず、与えられたメニュー、自分がなすべきことに集中して取り組んでいる」とあるチーム関係者が証言するように、防御率2.65(リーグ3位)の好結果にも一切の油断を見せない。

 5月の東は「相手がまだデータを持っていないから勝てているだけ。自信はない」と言っていた。そして9月の東は、やはり言う。

「まだ自信にはなっていないですね。先輩と話していても、やっぱり来年以降が大事になってくると思う。もっと分析されると思いますし、配球の面も含めて来年からは変えていかなくちゃいけない。だから、ここで止まっちゃいけないのかなと思うんです」

 シーズンも残り1カ月を切り、22歳には新人王の期待がかかる。
「そこまでの思いはないですけど、獲れるのは今年が最後のチャンスなので、そういう意味では獲れるなら獲りたい」

 東が欲しているものは勲章ではない。今年も、来年以降も、より勝てる投手になることを目指して慢心なく突き進んでいく。

 チームは金曜日からのスワローズ3連戦に勝ち越して、この週を4戦3勝で乗り切った。投打は徐々に噛み合いつつある。2位のスワローズまで5ゲーム差、CS圏内の3位ジャイアンツまでは4ゲーム差だ。

9月は残り20日間のうち18日が試合の予定で埋まっている。目の前の敵を倒し、倒して、一つずつ差を縮めれば、手は届く。

チームとファンの信念が、未来を引き寄せる。