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FOR REAL-in progress-
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」

2018-06-181点を取るために。1点を守り抜くために。





 6月12日、夕刻。

 ZOZOマリンスタジアムでは、マリーンズとのカード初戦に備え、ベイスターズの選手たちが練習を行っていた。

 内野でノックを受けていた大和は、後方へのフライを追いかけていた。
 その時――。後頭部と首の間あたりに強い衝撃を覚え、人工芝の上に倒れ込んだ。フリーバッティングのライナー性の打球が直撃したのだ。

 選手やトレーナーが駆け寄り、担架で運び出された。試合前に飛び込んできた「大和が救急搬送 頭部に打球」の報はファンを驚かせ、そして心配させた。
 ただ、周囲の喧騒をよそに、大和は冷静だった。

「自分の中では『大丈夫かな』と思ってたんです。(プレーできなくなるという)心配は全然してなかった」

 運び込まれた病院で医師の診察を受けた後、球場に戻ってきた。仲間たちが勝利のために試合を戦っている。その最中に、一人だけ帰路につくなどという考えは微塵も浮かばなかった。


 同じ日、N.ソトが体調不良を訴え、スタメンを外れた(翌13日に登録抹消)。大和も、強打した箇所が頭頸部ということもあり、2試合連続で欠場を余儀なくされた。

 マリーンズ戦に臨むメンバーは、おのずとフレッシュな顔ぶれになった。3番打者に抜擢されたのは、ルーキーの楠本泰史だ。22歳は戸惑いつつも、すぐに思考を切り替えた。

「『3番だからこうしよう』と思って、それができる選手ではないですから。新人らしく、思いきって、縮こまらずにやることがいちばん」

 ドラフト8位と下位指名ながら、シュアな打撃が評価され、開幕一軍に選ばれた。しかし、打席を重ねども快音が響かない。ノーヒットのまま、4月15日に一軍登録を抹消された。

「実力が足りないと感じながら試合に出ている一方で、使っていただいているからには結果で期待に応えたいという思いもあって、落ち着いてプレーできなかった。ファームでは、すべての面でスキルアップ、レベルアップすることを課題に挙げてやっていました」

1年目だから。これからの選手だから。そんな甘えは一切なかった。


 一軍という舞台を短期間でも経験し、その壁の高さを知ったからこそ芽ばえる覚悟があった。
「一軍で悔しい思いをしてファームに落ちた。そこから『もう一度、上に上がりたい』『一軍で結果を残したい』という思いで練習してきました。5月末に再昇格する時も『もう絶対に下に落ちたくない』『このチャンスを逃したら次はない』と覚悟を決めて、腹をくくってきました。もし、ずっと一軍にいたのなら、この悔しい思い、『何が何でも』という必死さは出てこなかったと思う。だから、すごく濃い2カ月半だったなと思います。悔しい思いをプラスに変えることの大事さがわかった。最初にうまくいかなかったことが、『うまくいかなくてよかった』と思えるようにしたいんです」

 再昇格後の6月3日、ホークス戦でついにプロ初ヒット、さらに初の長打となる二塁打も放つ。悔しさを糧に重ねた努力は実を結び、3番打者を託された12日のマリーンズ戦でも4打数2安打と結果を残した。

 故障者が多く、若手の出場機会が増えている現状を踏まえ、楠本は言う。
「チャンスはいま、ここしかない。このチャンスを絶対に手放したくない。そういう思いで毎日を過ごしています」





『苦しい時にバットを振れば、それは必ず返ってくる』


 5月31日、2年目の佐野恵太は楠本とともに一軍に合流した。
 1年目の記憶は「壁にぶつかった」の一言に集約される。21打数2安打の、打率.095。一軍のピッチャーたちは非情に立ちはだかった。

 奄美での秋季キャンプで、ファーム打撃コーチに就任したばかりの嶋村一輝と濃密な時間を過ごす。佐野が振り返る。
「シーズン中、どういう感覚だったのか。どんなことを考えたのか。自分の思いを伝えるところから始まって、マンツーマンで見てもらいました。かなりインステップすることで、打てるコースや球種を狭めてしまっていたので、それをなくしていこうと。理想の形を言えば、筒香(嘉智)さんのようなフォーム。秋季キャンプで取り組んだことを、すぐにウィンターリーグで試すことができた。次のシーズンはこれで勝負できるんじゃないかという手ごたえがありました」

 だが自身への期待感とは裏腹に、現実は厳しかった。楠本同様、一本のヒットも出ぬまま、4月30日に一軍登録を抹消された。

結果を求め過ぎて、せっかくつくり上げた自分の形が崩れつつあった。「もう一回、イチから丁寧にやっていこう」。そう声をかけてくれたのは、やはり嶋村だった。


 再昇格から2日目の6月1日、佐野はホークス戦のスタメンに名を連ねた。ファームで取り戻した自分のスイングを披露する絶好のチャンスだったが、佐野の心境は複雑だった。相手の予告先発、千賀滉大の名前に負けそうだった。
「『何で、よりによって自分がスタメンの日にこんないいピッチャーなんだ……』『これで打てなかったらまた二軍だな』とか思って、これまでにないくらい緊張してました。でも、いい意味で開き直れたんですかね。割り切って打ちにいけました」

 第1打席、千賀のストレートをフルスイングすると、打球はライトスタンドへ。今シーズン15打席目の初安打は、プロ初のホームランとなった。

 この時、ふと思い返した言葉がある。佐野は言う。
「代打の準備をしていると、中川(大志)さんと同じタイミングになることがよくあって。試合が終わってからも『バッティング練習、一緒に行くぞ』と声をかけてくれた。そういう時に、言ってくれたんです。『ヒットが出なければ落ち込むし、悔しいけど、そこで練習をやめちゃいけない。苦しい時にバットを振れば、それは必ず返ってくる』って。やっと一本が出て、苦しい時にバッティング練習しててよかったなって思えました」





 1週間後の8日、ファイターズ戦で第2号を放つなど、徐々に結果は出た。そして12日からのマリーンズとのカードに6番打者としてスタメン出場の機会を得る。13日の試合では、ストレートを豪快にすくい上げた第3号ソロでチーム唯一の得点を記録した。

 自らにかかる期待も、いまが大きなチャンスであることも、はっきりと自覚している。
「代打でも、自分が出してる結果以上にいい場面で使ってくれてますし、監督の期待に応えていきたいなという思いはあります。もちろんチャモさん(J.ロペス)が戻ってくれば試合に出るのは難しくなると思いますけど、いまはチャンスなので、一日一日、必死にアピールしていかなきゃいけない


帰ってきた大和が見せる、いぶし銀の活躍


 若手の奮闘もむなしく、“湾岸ダービー”は2連敗。3タテ阻止を期した14日、ショートの守備位置に大和が帰ってきた。

 2回にマリーンズが1点を先制したが、その後は両軍ともに得点のない、重い展開が続いた。試合が動いたのは7回2アウトからだった。9番に入った大和がヒットで出塁すると、神里和毅が内野安打でつなぎ、山下幸輝が同点のタイムリー。試合はそのまま延長戦にもつれ込んだ。
 11回1アウト二、三塁のチャンスの場面で、大和に打席がまわってくる。


「久々のスタメンでしたし、なんとかここで決めたいなと思っていました」


 4球目、真ん中付近に入ってきたストレートを弾き返した。打球はセンター前に抜け、2者が生還。この試合のヒーローはファースト塁上から三塁側ベンチに向けて、笑顔で右手を掲げた。

 ベイスターズの一員として50試合以上を戦ってきた。ここまでの歩みを振り返っての自己評価は「50点ぐらいじゃないですか」。大和は静かに言った。

「チームへの貢献度がそこまでないですし、ここっていうところでミスをしたこともあったし……。そういう部分がマイナスというか、いちばんダメなところですね」

 開幕戦の初回、シーズン最初の打球処理でエラー。その後も“らしくない”ミスが何度かあった。それでも、ここ数試合は好プレーを連発。大和の守備は冴えを取り戻してきている。

「やっぱり、(昨年までは)そんなに人工芝で試合することもなかったですしね。そういう慣れの部分がいい方向に出てるのかなと思います。いまは、本当に楽しく野球ができてます」





 続くバファローズとの3連戦では、筒香が背中の張りのため試合を欠場した。主砲不在の打線は得点力不足に苦しみながらも、カードの真ん中、土曜日のゲームで1勝をもぎ取った。

 スコアレスの延長11回、先頭打者として打席に入り、8球粘ったすえに四球で出塁したのが大和だった。2アウト二塁となり、神里の右中間スリーベースの間に決勝のホームイン。陰のヒーローと呼ぶにふさわしい、いぶし銀の活躍だった。

 1点を取るために。あるいは、1点を守り抜くために。
 大和が攻守にわたって重要な役割を担う場面は、今後さらに増えてきそうだ。

 これだけ故障者が相次げば、当然、チームは苦しい。だが、それでも試合はやってくる。試合には勝たねばならない。6月16日、決勝打を放った神里の言葉がすべてなのだろう。頼りがいのある24歳はしっかりと言い切った。

「ケガ人は多いですけど、いま出ているメンバーがしっかり自分の役割を果たしていけば勝てると思う。それを意識してやっていきたいと思います」


 今日と明日は、雨天順延となっていたライオンズ戦とイーグルス戦が組まれている。セ・パ交流戦も、シーズン通算も、ここで連勝すれば5割復帰だ。

 いま出ているメンバーで、全力で2つ勝ちにいく。