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FOR REAL-in progress-
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」

2018-05-14“救世主”となった背番号99 -野球人として100%のプレーを





 勝利をつかめそうで、つかめない。
 2連戦のうち1試合が雨で流れたカープ戦は、9回に追いついて引き分けに持ち込んだものの、本拠地に戻ってのスワローズ戦で2連敗。5月第2週のラスト、日曜日のゲームを控えて、チームは当月わずか1勝(5敗2分)という苦境に立たされていた。

 その間も、獅子奮迅の活躍で鮮烈な輝きを放ち続けたのはN.ソトだ。

 一軍に昇格した6日、2番・ライトでスタメンに名を連ねると、日本球界初打席でいきなりタイムリーツーベース、第2打席では特大のホームランと、寄せられた期待に満点で応える。29歳の打棒は次戦以降も火を噴き、球団の外国人選手ではJ.パチョレック以来30年ぶりという、デビュー戦からの4戦連続マルチヒットを記録した。

 「状態はすごくいい」とソトは充実した表情で語る。

「日本の野球は本当にレベルが高くて好きだ。アメリカとは配球のパターンが違うし、そこはまだ慣れている途中の段階だけど、自分の売りであるバッティングでもっともっと貢献していきたいと思っているよ」


 カリブ海に浮かぶ島国、プエルトリコに生まれた。同国最高峰のアマチュアリーグAA(ダブルエー)でプレーした父の影響で野球を始め、高校卒業後の2007年にMLBドラフト3巡目でシンシナティ・レッズに入団。2013、2014年とメジャーの舞台に立ったが、思うような結果は残せなかった。

 その後、マイナーリーグでプレーを続けていたところに舞い込んだのが、ベイスターズ入団テストのオファーだった。

 異国での挑戦を決断した理由について、ソトは言う。
「メジャーに定着することができず、3Aあたりを行ったり来たりするシーズンが続いていた。やっぱりメジャー、一軍でプレーしたいという気持ちが強くて入団テストを受けてみることにしたんだ。日本でいい数字を残すことができれば、今後のチャンスが広がるという話も聞いていたしね

 春季キャンプではA.ラミレス監督から“野手MVP”として名前を挙げられるなど、シーズンに向けての調整は順調そのものだった。



 そして3月30日、待ちに待った開幕戦の試合前練習で、ソトは右ふくらはぎを痛めてしまう。あまりに残酷なタイミングでの故障だった。翌31日に登録を抹消されファームでの調整に回ったソトの姿を、ファーム監督の万永貴司はふと目に留めた。


「これから開幕という時だったからね、本人も意気込んでいただろうし……。やっぱり最初は、悔しそう、寂しそうに見えましたよね」


『ソトの力でなんとかチームを救ってくれ』


 やがてケガが癒え、ファームの練習に参加できるようになったころから、万永のソトに対する印象は徐々に変わっていく。

「助っ人外国人ですから、調整法は彼に任せようと思ってたんです。でも彼は、『監督・コーチが指示したとおりにすべてやります』と言ってきた。よく覚えているのは、シートノックの時の光景かな。まずライトでノックを受けて、それが終わると次はサードで受けるんですけど、彼は守備位置をダッシュで移動してたんですよ。非常にマジメで一生懸命な外国人だなあ、と

 万永のそんな言葉を伝えると、ソトはファームで過ごした日々を懐かしむかのように口元に微笑を浮かべた。
「ファームではあってもお互いをリスペクトするべきだし、しっかりと100%の力でプレーしたいという気持ちもあったから、自分のいいところを見せたいと思っていたんだ。ぼくはたしかに助っ人という立場だけど、だからといってみんなと違うわけじゃない。同じグラウンドに立つ以上、野球人としてみんなと一緒に100%のプレーをしたいと思っていた



 イースタン・リーグ6試合で打率.450と、万永いわく「別格」の実力を示し始めたソトは5月6日、ついに一軍に昇格する。前日、長浦での練習を終えて帰宅する途中、安針塚駅の階段をのぼろうとしていたところで、一緒にいた通訳の電話が鳴った。練習場まで歩いて戻ったソトに、万永は伝えた。

「一軍のチーム状態があまりよくなかったので、『ソトの力でなんとかチームを救ってくれ』と言いました。彼は『わかった。大丈夫』と。表情はにこやかでしたね。やっと来たかと、そんなふうに思っているように見えました」


一軍に合流して即座に、引き分けを挟んで4連敗中だったチームの“救世主”となったことは前述のとおりだ。

 出場1試合目のジャイアンツ戦でヒーローとなったソトは、ゲーム後、「何が支えになったか」という記者からの質問にこう答えていた。

「ファームにいる間、そこにいる誰もが、この一軍の舞台で戦いたいという思いを持って毎日を必死に送っていた。ぼく自身、一軍で活躍するんだという気持ちがすごく強くなったし、だからこそファームでの時間も無駄なものにならなかった。そういう環境に身を置けたことは、本当に大切なことだったと思う」



 翌日、万永は報道を通じてそのコメントに触れた。
「意外な感じはありましたね。助っ人の外国人がそういうふうに考えることはあまりないのかなと思うし、やっぱり心のどこかで『おれは違うんだ』と思うものだろうから。でも振り返ってみれば、ソトは若い選手たちの中に普通に交じって練習していた。『おれは違う』なんて思っていなかったということがああいう言葉として出てきたんだと思うと、彼らしいというかね。ファームの空気をそういうふうに感じてもらえて、よかったなと思います



 5月13日午後1時、厚い雲が空を覆う横浜スタジアムで、5月の2勝目を獲りにいくスワローズ戦が始まった。先発の京山将弥が四球を連発し3点を失う苦しい立ち上がりとなったが、ベイスターズはすぐさま反撃に出る。

 1回裏、四球で歩いた神里和毅を一塁に置き、ソトが5戦連続となるヒットでつなぐ。筒香嘉智のタイムリー、宮﨑敏郎の2戦連続となる2ランで追いつくと、ノーアウト満塁の大ピンチをしのいだ直後の3回裏には、J.ロペスがこれまた2戦連続となる2ランを放って勝ち越しに成功した。

 次第に強まる雨の中、柴田竜拓の1号ホームランなどで得点を重ね、7回途中で降雨コールド勝ち。文字どおり泥臭く、1週間ぶりの勝利を手にすることができた。

 2打数1安打で、打率をちょうど5割としたソトは言った。
「目標を数字として言うことはないけど、いい結果を残して、チームの優勝に貢献したい。来年以降もここにいられるように、がんばりたいと思っている」

 ひたむきに野球に取り組む、背番号99のカリビアン。まだまだ先は長いシーズンの大きな戦力となってくれるに違いない。