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FOR REAL-in progress-
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」

2018-04-1617年ぶりの8連勝- 失敗しても“前を向かせる”空気





 節目の記録を達成するチャンスは、思いのほか早くやってきた。
 4月10日のジャイアンツ戦。ベイスターズ1点リードで迎えた9回裏の東京ドームに、山﨑康晃の名前がコールされる。
 三塁側ベンチから姿を現したクローザーは、青く揺れるレフトスタンドを視界に捉えつつマウンドに上がった。

「(前週末の)広島で2連勝して、帰ってきてすぐの試合。トントン拍子というか、だいぶ早い展開で回ってきたな、と。早く“数字”は超えたいと思ってました」

山﨑が口にした“数字”とは、言わずもがな「プロ通算100セーブ」を指す。

 大きなマイルストーンを前にして、自然と体は固くなった。
「緊張しました。普通にやってるようで、普通じゃないような。ちょっとふわふわっていうか。とにかく力んでましたよね」

 イニング先頭の吉川尚輝に対し、いきなりスリーボールとした。
 そこからストレートを続けてセンターフライに打ち取ると、フルカウントまで粘る坂本勇人には、インローの際どいコースへ直球を投げ込み、ストライクコールを気迫でもぎ取った。続く大城卓三にもスリーボールからカウントを立て直し、最後は伝家の宝刀ツーシームで空振り三振。


 チームが3連勝を飾ると同時に、プロ入りから積み上げてきたセーブ数は3ケタに乗った。


 自分へのご褒美は? との問いに対し、
 山﨑は「いろんな紙面やテレビで取り上げてもらって、そうやって賞賛を浴びることがいちばんのご褒美なのかな」と答えた。
 そして、こう付け加えた。

「逆に、ぼくが感謝するところだと思ってます。
コーチや裏方さんも含め、バックアップがあってのぼくだと思うし、それこそセーブシチュエーションなんて、味方がつくってくれた機会ですから。
みんなに賞賛してもらうというよりも、ぼくが感謝の気持ちを伝える番。そのうち、サプライズで何かしたいなって考えてますよ」

 山﨑は「(100を)超えたと同時に、1からリスタート。もう一回コツコツと積み重ねていく」と語っていたとおり、次の日も、その次の日もマウンドに向かい、セーブを重ねた。

 今シーズンは早くも7セーブ(12球団トップ)をマーク。次なる節目もあっという間に訪れそうな勢いだ。


『お前、やられてんじゃねえよ』


「すごい数字だと思いますけど、ヤスなら150セーブ、200セーブというところも楽々と超えていくんじゃないですか」
 クローザー経験のある三上朋也は、後輩の記録にもまるで驚かない。

 山﨑が100セーブを達成した試合でも6回の1イニングをわずか8球で三者凡退に抑えているが、記録がかかっていることは「知りませんでした」。
 試合が終わり、「みんながそういう雰囲気で」やっと気づいた。山﨑には「『おめでとう』ぐらいは言いましたよ」。

 この飾らなさ、この変わらなさが、三上の頼もしさでもある。

 14試合を終えた時点で9登板と、今シーズンもフル回転。しかも、ビハインドの場面で投げることもあれば、特定のイニングを任されているわけでもない。

 三上は「カバーリングする範囲が広がったぶんだけ準備の時間も長くなる。大変です」ときっぱり言う。
 それでも目につくのは、150km超をコンスタントにたたき出す直球の球速だ。

「スピードガン測っている人にお金を渡してるんです……というのはウソで(笑)。去年はコントロールも、球速もあまりよくなかった。その原因は何だろうと反省して、バランスが崩れていたからだという結論に至りました。オフにいろいろとやってきて、バランスがよくなってきた。要は理にかなったフォームになってきたことが、球速にも出ているのかなと思います」



 三上は昨シーズン、不調に陥り、8月にファーム行きを命じられた。
 映画『FOR REAL-必ず戻ると誓った、あの舞台へ。-』の中には、田中健二朗やS.パットンらに「ファーム行ってくるわ」とさらりと言って立ち去る三上の姿が登場する。

 あの時、いつもと変わらぬ表情の裏側で、何を思っていたのだろうか。

「ぼくだって人間なんで、思うところはありますよ。
でも、いいピッチングをしていて落とされたなら、悔しいとかって感情も出てきたんでしょうけど、あの時は落ちるべくして落ちたというか。それぐらい投球内容はひどかったし……。当然だなっていう思いもどこかにはあったのかもしれない」


 腐っていてもしょうがない。心のスイッチはすぐに切り替わった。

 調整を終えて一軍に復帰すると、クライマックスシリーズ、そして日本シリーズまでチームとともに戦い抜いた。


 三上は言う。
「またいずれバランスはズレてくるし、失敗もあると思う。でも、失敗は経験してますから。そこから立ち直るという経験もしてますから」

 打ちひしがれ、再起する。その繰り返しによって投手たちは強くなる。

 手痛い一打を浴びた時、再び前を向くことは決して簡単ではないが、いまの投手陣にはみんなで前を向かせる空気があるのだという。

 三上が続ける。
「ぼくも失敗するし、ヤスも失敗する。今永(昇太)もやられたりする。そういう時、次の登板に引きずらないように切り替えていこうぜ、という話はみんなでしますね。
打たれた本人は沈みますけど、それを絶対に放っておかない。試合が終わった後のロッカーで、すぐに言うんです。
おもしろおかしく、『お前、やられてんじゃねえよ』『なに一人で落ちてんだよ』とかって。思いっきり傷に塩を塗っちゃって、早く治させる。そういうことができる空気になってきましたね」




 山﨑も昨シーズン、厳しい状況を乗り越える経験をした。闇の先に光があると知っているから、こんなセリフが口をつく。

 開幕直後、チームは波に乗れず、4月1日の今シーズン初勝利からしばらく守護神の出番はなかった。その間、何を感じていたのかと尋ねた時の答えだ。

「筒香(嘉智)さんが開幕前のミーティングで『長いシーズン、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。それでもみんなで輪を一つにして戦っていこう』と話してくれた。
序盤から苦しい時期が続いて、フラストレーションが溜まっていたというのも正直なところですけど、絶対に明るい時期が来ると思ってぼくは待っていました。
そしていま、こうやってチーム状況がよくなったことを思うと、あの時期も無駄じゃなかったんだって思いますよね」

 4月7日、広島で挙げた今シーズン2勝目から、チームはただひたすらに勝利を重ねている。ジャイアンツ、ドラゴンズと目の前の敵を倒し続けて、17年ぶりの8連勝。その間、リーグ順位は最下位から単独首位にジャンプアップした。若手中心の先発ローテーションとなっている現状、早い段階で継投に入るケースも多い。


 冷静沈着で何事にも動じぬ三上と、「自分の記録よりチームのため」と連投も厭わぬ山﨑。


 この2人を中心とするブルペン陣の奮闘に、春の快進撃は支えられている。

 勢いに乗って迎える今週の初戦は、明日17日のジャイアンツ戦。連勝をさらに伸ばすことができるか否かは、故郷新潟での凱旋登板となる飯塚悟史の右腕にかかっている。