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FOR REAL-in progress-
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」

2017-10-02ついにたどり着いた、2年連続CS進出




横浜DeNAベイスターズ、2年連続のCS進出決定――。
 文字にすればこんなにもシンプルなのに、そこにたどり着くまでの道のりが長かった。


 10月1日、CSへのクリンチナンバーを「2」として迎えたカープ戦。7回裏、梶谷隆幸が打席に向かおうとしたその時、横浜スタジアムが大歓声に包まれる。東京ドームでの試合が一足先に終わり、ジャイアンツが敗れたのだ。
 ベイスターズは攻撃の手を緩めず、8回に2点を追加して13-7とした。「何点差でも行くぞと言われていた」山﨑康晃が鬼神のごとくマウンドに立つ。テンポよく2つアウトを重ねた後、ゴロを捕球した宮﨑敏郎からJ.ロペスへとボールが送られる。
 141試合目のゲームセット。その瞬間、クライマックスへの道がやっと開けた。



 A.ラミレス監督が「ヤマ場」と位置付けたのは、9月終盤の6試合だった。名古屋でのドラゴンズ戦に始まり、2位タイガースと甲子園で2戦、横浜で3戦。
 その前半戦を3連勝で飾り、ホームへと帰ってきた。奇跡の逆転2位への期待は高まったが、4点差を追いつかれてのドロー、さらに2ケタ失点の敗戦を喫して一時は勢いを失いかけた。

 3位をキープしていたとはいえ、4位とはゲーム差なし。ここで踏ん張り切れなければCSさえ危うい。だから9月29日、タイガースとの五番勝負の最終戦は、絶対に勝たなければならない一戦だった。


その前夜、戸柱恭孝は光山英和バッテリーコーチに言われた。
「明日、行くぞ。流れを変えてくれ」



 正捕手の評価を得ながら、このところスタメン起用から遠ざかっていた。井納翔一をリードして1-0で勝利を収めた9月16日の試合から2週間近く――心に渦巻くものがなかったはずがない。

 戸柱は自らに言い聞かせるように語る。
「すごく悔しい思いは強かった。去年からずっと当たり前のように出てましたし、こういう大事な時期にスタメンから離れるっていうのは……。何が悪くて外れたのか、自分がいちばん感じ取ってます。みんながどう捉えるかは勝手というか……そこはあまり気にせずに、自分自身がしっかり考えてこそ、今後に生かすことができると思うので」

 球場にやって来て、試合に出ることなく、球場を後にする。そんな日々が続いても気持ちが折れなかったのは、指揮官にこう声を掛けられていたからだ。


「必ず大事なところで出番が来る。そこまでなんとか我慢して、モチベーションを保ってやってくれ」
 その言葉どおり、勝負どころの一戦で、スタメンマスクは戸柱に委ねられたのだ。



 先発投手は石田健大。ヤマ場の初戦、9月23日のドラゴンズ戦で6イニングを無安打無失点に抑える好投を見せていた。
 エース、そして開幕投手に指名された今シーズン、勝ち星は思うように伸びなかった。1カ月半にわたる故障離脱もあった。ようやく本来の投球ができるようになったのは9月に入ってからだ。


 石田は言う。
「1年間、投げることもできなかったですし、こういう成績で終わってしまってチームに迷惑をかけたという思いはあります。ここ何試合かは変化球を多く投げ過ぎていたと思う。真っすぐがいちばん大事だということにあらためて気づいてから、徐々によくなってきました」


 だから中5日で臨んだタイガース戦でも、「真っすぐで押す」がバッテリーの共通認識だった。
 9勝を挙げた昨シーズン、25試合中24試合で戸柱と組んだ。石田がプロ3年目にして開幕投手を託されるほどの信頼を得ることができたのは、当時ルーキーながら必死でリードしてくれた戸柱がいたからだ。

「ぼくとトバさんは、何も言わなくてもお互いがこうだっていうのはわかり合ってる仲だと思ってます。もちろん首を振ることもありますけど、お互いがこれだと決めたボールで勝負できている。『この球で大丈夫かな』って気持ちで投げているボールはありません」



 石田の直球は次々とコースに決まり、戸柱のミットに吸い込まれた。打者がストレートに照準を合わせてくれば、一転して変化球でタイミングを狂わせた。石田は走者を許しながらも粘り強く、スコアボードに「0」を並べていく。

 4回には女房役が値千金の一打を放った。外角のツーシームを振り抜くと、打球はレフトフェンスを越えた。ほとんど無風だったにもかかわらず、この先制3ランで50打点を超えた戸柱は「強風が吹いてたんで」と謙遜を貫いた。

 語弊を恐れずに言えば、昨シーズンの飛躍が2人を苦しめたのかもしれない。エースとして、正捕手として、それにふさわしい結果を出すことが当たり前と周囲は見る。時には足踏みもしながら、高まる期待になんとか応えようともがき続けたシーズンだった。


その2人が、ヤマ場の最後を締め、チームの流れを変える快勝の立役者となったのだ。


 この勝利で6勝6敗とした石田は言った。
「チームにとってもすごく大きい1勝。(自身が挙げた勝ち星の中でも)今シーズンの、いちばん価値ある1勝かなと思います」

 攻守にわたって活躍を見せた戸柱は言った。
「チームにとっても、ぼくにとっても、ものすごく大事なゲームだった。その試合に勝てたことで一切の迷いが消えました。吹っ切れました」

 その2日後、チームはシーズン3位を確定させ、CS進出を決めた。ホームラン7本が乱れ飛ぶ激闘を勝利で終え、戸柱は心底ほっとした表情で言った。
「シーズンは終わってないですけど、いろんな部分で充実感はすごくありました。CSに行くまでにいろんな経験ができましたし。なんと言っても今日勝って、2年連続で決めたというのが大きい。監督がいつも言うように『どう終わるかが大事』。シーズンは3位ですけど、まだ上に行くチャンスがあるんで。ここからですよ」

 9回の守りは、嶺井博希に譲った。CS進出が決まった安堵感、苦しくも戦い抜いてきた充実感が身を浸す一方で、ひとつまみの悔しさは消えない。

 だが、それでいい。舌に残る微かな苦味こそが、明日への大きな糧になるのだから。