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FOR REAL-in progress-
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」

2017-09-11いま、この瞬間に懸ける




 横浜で振り払ったはずの黒い雲が、気まぐれな秋風に乗って甲子園まで運ばれてきたのだろうか。
 本拠地でのCS開催へ、いっきにゲーム差を縮めるべく臨んだ2位タイガースとの直接対決。しかし勝利を欲する思いとは裏腹に、2試合連続のサヨナラ負けを含む3連敗を喫してしまった。

 ベイスターズは、セ・リーグ6球団で最も優勝から遠ざかっているチームだ。リーグ優勝・日本一を果たした1998年の輝きは、遥か19年前の彼方にある。
 いまの屋台骨を支える選手たちは昨シーズン、CSの舞台を初めて踏んで、勝ってこそ明日が開ける修羅場をくぐった。それはたしかに貴重な財産となったが、真のゴールにはやはりたどり着けなかった。ゴールへの道のりを最後まで歩くという「経験」は得られなかった。

 順位争いが熾烈を極めるシーズンの終盤戦、その「経験」は時に大きな武器になる。一度通ったことのある道ならば、どこに落とし穴があるか、次に起こりうることは何か、一定の予測と対策が可能になる。

 今シーズンのリーグ優勝の望みは断たれたが、目指すべきものはまだある。
 それを手にするため、過酷な残り16試合を乗り切るため、「経験」を仲間に伝え、自ら範を示せる男は、ベイスターズにもいる。


美酒の味を知る男。その道を最後まで歩ききったことのある男。
G.後藤武敏――人呼んで、ゴメス。


 2003年のプロ入りから8年間、ライオンズに所属した。その間に2度、日本一になっているが、2008年の日本シリーズでは後藤は全7試合にスタメン出場。ホームランも放つなど、主力として頂上決戦を戦う、稀有な経験を得た。

 2011年オフにトレードでベイスターズにやって来てからは、主に代打の切り札として、決して多くはない打席で印象的な仕事をしてきた。移籍6年目となる今シーズンも、「需要があれば上げてもらえる」と開幕からファームでチャンスを待ち、スイングに磨きをかけてきた。

 一軍昇格を果たしたのは7月23日。後藤は淡々と合流の指示を受け止めた。
「よし! みたいな、そういうのはないです。一喜一憂しないでやってるから。ぼくの場合は立場上、代打の一振りで結果を出すしかない。ファームの試合でやってきたことを、そのまま上でもやる。そこでベストを尽くせるような準備だけはちゃんとしておく。それだけなので、そこ(昇格)に特別な感情はないですね」


日本人の耳になじんだイントロが流れ始めると、スタジアムのボルテージはいっきに上がる。「ゴーメースー!」の掛け声は、人をなぜか笑顔にする。


 大歓声の中で打席に入る後藤はしかし、なかなか「H」ランプを灯せなかった。
 1週間、2週間、3週間……快音の生まれぬ日々は長かった。
「つまずいたあ、と思ったよね。やべえよって。毎年のことですけど、1本打つまでが本当に大変。今年は特に苦労しましたね」

 フィジカルコンディションは万全だったが、心がすり減っていくのはどうしようもなかった。

「時期的にも終盤だから。やっぱり、いろいろな感情があるわけですよ。打てなかったら、うーんってなるし、これからのことも考えなきゃいけないし……こういう立場だから、気持ちがどうしても大変ですよね。ただ、そういうのを周りには見せちゃいけないから」

 待望の初安打は8月18日、17打席目でついに出た。翌週24日のカープ戦では、同点の9回裏2アウトで打席に入り3球目を強振すると、打球はあわやサヨナラホームランというライトフェンス直撃の二塁打となった。


「ぼくらしいでしょ。決められないっていうね。だけど、ギリギリで入らなかったから、もっともっと練習しようと思うんです。それに倉本が(サヨナラ打を)ちゃんと決めてくれたから、勝てばオッケーですよね」


 9月5日、週のアタマのスワローズ戦は、両先発投手が粘り合い、重苦しい展開が続いていた。J.ウィーランドのタイムリーによる1点のリードを保ったまま、試合は終盤へと入った。後藤は、いつも通り5回になると体を動かし始めた。ルーティンのメニューを入念に一つずつこなし、勝負の1打席に向けて気持ちを徐々に高めていく。

 展開によっては、いざグラウンドへ出ようとしたところで「待て」がかかることもある。そんな時はベンチの裏へ戻り、気持ちを静め、また高めていく。「それが代打の難しさ」と、後藤は言う。

「この試合でも一回あったと思いますよ。回ってきたら行くぞ、というのが」

 実際の出番は8回だった。2番から始まる攻撃だったが、筒香のソロが飛び出し、後続も出塁して、思いのほか打順は進んだ。8番・投手のところで、あの曲が鳴り響く。
「(8回に回ってくるのは)想定はしてなかったけど、ただ、やっぱり結果を出さなくちゃいけないわけだから。プレッシャーもある中で、淡々と打席に入れるように。いかに準備をしておくかが大事」

 2アウト満塁。勝利をたしかなものにするために追加点が欲しい場面。
 ここで後藤は初球を思いきり振った。外角のスライダーが先端に当たり、バットは折れた。適度に勢いを失った打球はライト前に落ちる2点タイムリーとなった。


これぞ、代打後藤の真骨頂だ。
今シーズン、一軍に昇格してから代打として20打席に立った。そのうち、最初のストライクを見逃しで取られた打席は1度もない。
空振りか、ファウルか、安打か、凡打か。とにかく、バットを出しているのだ。


「良さ、そこしかないでしょ」

 そう言って後藤は笑うが、それこそまさに準備の賜物というほかない。
「ファーストストライクをまだ振りにいけてるからね。だから自分に対しても、まだ期待してますよ。気持ちの面ではまだまだ死んでない」

 今シーズン2度目の4連敗となったベイスターズは、2位とは6.5ゲーム差に広がり、4位ジャイアンツとのゲーム差もついになくなった。明日から控えるのは、優勝マジックを「5」としているカープとの敵地3連戦だ。

いま、この瞬間に懸ける。後藤をはじめとする代打の選手のみならず、チームの全員が、1球に、1打席に、すべての力をぶつけて結果を出す。いまの苦境を脱し、ラストスパートへつなげていくには、それ以外の道はない。